2010年09月24日

2009年04月20日

続・竹取物語について

唐突に小説が公開されて、なんなのかわからなかったと思うのですが、某雑誌に投稿していたものが「自由な発想」という企画趣旨に合わないということで不採用になったのでこっちで公開しました。

眠らせておくにはとてももったいない出来だったので、ここの読者のみなさんに楽しんでもらえればと思います。

こっそり反響もあってうれしかったです。

あ、断わっておきますが、小説家になろうとはこれっぽっちも思っていません。ので、小説原稿ではなくて、スピーチ原稿の依頼をお願いします。
posted by Kagege at 17:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 続・竹取物語

2009年04月18日

続・竹取物語

または憂いのない国

今となっては遠い昔の話しです。月の国に、なよ竹のかぐや姫と呼ばれた、それはそれは美しいお姫さまがおりました。その美しさは月の国随一と謳われ、かぐや姫の前ではどんなにまばゆく輝く宝石もかすんでしまうほどでした。

かぐや姫が月の国一美しいと評判になったのには、こんないきさつがありました。前世の罪を償うための下界での勤めを終え、月の国に帰ってきたかぐや姫は、昼夜空けず三日三晩泣き続けました。涙で裾を濡らすその姿を見た天人たちは、なんという美しい姿なのかと口々に噂をしたのです。天人たちには憂いがありません。憂うことのない天人たちにとって、泣いているかぐや姫の姿はとても珍しく、また美しく映ったのでした。こうしてかぐや姫の噂が国中を駆け抜けたのです。

美しく泣き濡れたかぐや姫に会いたいと、国中からその噂を聞きつけた色男たちが、かぐや姫の屋敷へ求婚にやってきました。その数は千とも万とも数え切れないほどの男たちで、屋敷の周りは埋め尽くされました。しかし、かぐや姫は一向に男たちと会おうとしません。次第にその数は減り始め、千と百日ほどたったある晩、男の数は五人にまで減っておりました。

その様子を見ていた月の国の公、かぐや姫の父は、「かぐや姫よ、お前が月の国に帰ってきて、はや千と百日。そろそろ嫁ぎ先を決めてはどうか。幸い、名のある公の子息が五人、お前と婚約したいと申し出てきている。彼らの中から選ではどうだ。」といいます。しかし、かぐや姫にはその気がありません。そこで、地上で五人の男からの求婚を断ったのと同様、まったく同じ無理難題を押し付けて断ることにしました。かぐや姫は、「五名の殿方、それぞれ甲乙つけがたく、また私への思いも比べられません。そこで、次の品物を持ってこられた方の下へ嫁ぎたいと思います。仏の御石(みいし)の鉢、蓬莱(おうさい)の玉の枝、火鼠の裘(かわごろも)、龍の首の珠、燕の子安(こやす)貝(がい)、このいずれかの品物をお持ちくださいましたら、その方と婚約いたしましょう。」月の国の公は、それは名案だと五人の男にそのように伝えました。

その次の日のことです。五人の男がそれぞれ品物を携えてやってきました。

一人目の男が、「こちらが仏の御石の鉢でございます」と言って差し出しました。「血の滲む思いをいたしました。月の国よりはるか数百千万里の彼方まで出かけて行って取って参りました。本物である証拠に、伝説の通り、薄暗がりでこの鉢は光り輝きます。」といって黒いビロードの布で作った日陰に鉢を置くと、神々しい光を放ちました。「これこの通り本物でございます。どうぞご婚約を」と言います。

二人目の男が、「しばし待たれよ」と、そのやり取りに割って入りました。「私は火鼠の裘を持って参りました。こちらが、数百千万里のそのまた数百千万里の航海の末に手に入れた火鼠の裘でございます。本物である証拠に、伝説の通り、火をつけても燃えませぬ」と言って、家来に命じ、火鼠の裘を燃えさかる焚火にかざさせました。火鼠の裘はみごとに火がつきません。「これ、この通り本物でございます。どうぞご婚約を。」

その様子を見ていた三人目と四人目の男も、品物を取り出し、数百千万里のそのまた数百千万里のはるか彼方の旅の末に手に入れたのが、「この蓬莱の玉の枝だ」「この燕の子安貝だ」と言って差し出します。どちらも本物でした。

月の国の公は、「いずれも本物に違いない。かぐや姫、この中からお前の婚約者を選ぶがよい。」と言い、かぐや姫に夫を選ぶよう迫りました。かぐや姫は、まさか持って来ることができないだろうと思っていた本物の宝物が、たったの一日で揃ったことに驚き、胸中穏やかではありませんでした。かぐや姫は憂いのないはずの国でたった一人、地上に残した思い人のために憂いていたからです。

しばしの沈黙のあと、五人目の男がその沈黙を破りました。「私が今日持って来た龍の首の珠は、偽物でございます。」と言って五色に輝く珠を地面へと打ち捨てました。月の国の公はこれを見て、「それは一体どういうつもりか。品物を持って来れぬ御仁が、かぐや姫と会うことまかりならぬ。即刻立ち去るがよい。」と言い放ちます。しかし、五人目の男はそのまま言葉をつづけました。「私は月(つきの)石(いしの)皇子(みこ)と申します。その他の御仁のように、この世に二つとない秘宝を持ってくることはできませぬ。しかし、あなたとお会いするには、このように偽らねば会うこと叶わず、無礼を承知の上で偽物を持って参った次第。憂いのないはずのこの月の国で、涙を流すかぐや姫の噂を聞き、ひょっとすると下界への思いが残っておられるのではと考えて馳せ参じました。あなたは前世の罪によって、下界での生活を強いられました。その罪とは、愛してはならぬという罪です。あらゆる執着のはじまりは愛ゆえにはじまります。その愛を禁ずることで、この国には一切の穢れがありません。いがみ合いも戦争もありません。我々天人は、そのようにして生活をしております。しかし、あなたの前世はその罪を破ってしまわれました。」

かぐや姫は、その言葉に驚きながら「どうしてあなたは、私の前世の罪を知っているのですか?」と聞き返しました。すると月石皇子は「私は、あなたが罪を犯した相手の息子です。同じ罪を犯した父は、あなたと共に下界での生活を余儀なくされました。しかし、因果は断ち切れぬもの。遠い下界で罪を償いながら、お二人は再会され、愛し合われました。私の父は、帝です。」

かぐや姫は、「帝」という言葉を聞くや否や泣き崩れてしまいました。「ああ、あなたは帝の前世の御子息なのですね。私は、帝への思いをいくら打ち消そうと努めても、一切の憂いが消えてなくなるはずの天の羽衣を纏(まと)っても、まったく憂いが消えませぬ。なぜ、周りの天人たちと同じように憂いがなくならないのか、どうして泣かずにはおられないのか、この千と百日、わかりませんでした。ですが、今ようやくわかりました。私のこの思いは、前世からの宿縁だったのですね。」

月石皇子は「どうかかぐや姫、私と共に下界へ、父の下へ参りましょう。」と言って、用意してあった船にかぐや姫を乗せて連れ去ってしまいました。それを見ていた周りの男たちや月の国の公は、「ああ、行ってしまった」と、一寸だけぼーっとして、散り散りになりました。みな憂いがないのです。

月石皇子は、帝の下までかぐや姫を送り届けて、帰っていきました。かぐや姫は帝と再会し、前世からの宿縁について話しました。帝は「私は、あなたとお会いしてからこれまで、あなたのことを片時も忘れたことはありません。私には宿縁についての記憶がありませんが、あなたへの思いは本物です。どうか私と結婚してください。」と言い、かぐや姫は「はい」と返事をしました。帝はかぐや姫を抱き寄せて、そっと口づけをしました。

その時です。天が轟き、閃光が地面に走ったかと思うと、月の国の使者が地上から三寸ばかりほどのところに浮かんでいました。使者は低く地響きするような声で「おお、なんという愚かなことか!愛してはならぬという罪を、前世に続いて現世でも犯そうとは。もはや酌量の余地なく、両名とも永久に天界から追放せねばならぬ。未来永劫この欲望と嫉妬で穢れた下界を這いずるがよい!」というと、霞に紛れて消えてしまいました。二人は少し驚きましたが、これからもずっと一緒にいられることを喜びました。

かぐや姫と帝は、こうして共に暮らすことになり、育てのお爺さんとお婆さんを呼んで幸せに暮らしたということです。




※引用、転載は自由ですが、著作権は放棄しません。蔭山洋介
posted by Kagege at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 続・竹取物語